2024.10.28
今、日本では空き家が増え続けており、使用目的のない空き家の数はこの20年間で約2倍に増加しています。2023年の総務省「住宅・土地統計調査」によれば、日本全国の空き家数は過去最多の900万戸に達し、空き家率は13.8%と記録的な数値となっています。空き家は倒壊や景観悪化、不法侵入などのリスクを伴い、地域の安全や経済に大きな影響を及ぼします。この記事では、空き家問題の増加背景や影響、対策の最新動向について詳しく見ていきましょう。
空き家の増加は、人口減少や高齢化、都市部への人口集中、相続時の放置が主な原因です。 特に、少子高齢化により地方部で空き家が増加している状況が見られます。2023年の統計によると、総住宅数は2018年の62,407万戸から65,021万戸へと4.2%増加していますが、空き家数も同時に増えています。中でも和歌山県や徳島県は空き家率が21.2%と全国平均を大きく上回り、西日本では空き家率の高さが目立っています。
放置された空き家は、木の枝が敷地外にはみ出すような状況に加え、倒壊や外装の落下などにより周辺住民や通行人へ危険を及ぼす可能性があります。また、害虫の発生や不法侵入のリスクも高く、治安の悪化や景観の損なわれた地域は魅力が失われ、さらに空き家が増えるという悪循環に陥りがちです。
こうした問題に対応するため、特に危険と判断される空き家を「特定空家」に認定し、市区町村が助言・指導、勧告、命令、さらには強制撤去などの措置を取れるようにした「空家法(空家等対策の推進に関する特別措置法)」が施行されています。しかし、特定空家になる前に早期対応する必要性から、2023年の改正により「管理不全空家」への指導も可能になり、より適切な管理が進められるよう対策が強化されました。
空き家を放置しないためには、早期の対策が鍵です。所有者は 「売る」「貸す」「解体する」 といった方針を早めに決め、空き家のリスクから自分や家族、地域を守ることが求められます。特に、空き家の発生原因の多くが相続によるものであるため、親が元気なうちに家族で 方針を話し合い 、対応を計画しておくことが重要です。
自治体が運営する「空き家バンク」を利用するのも一つの方法です。 「空き家バンク」とは、自治体が運営する空き家情報をデータベース化したシステムのことです。所有者が登録した空き家を、移住希望者や地元住民に向けて紹介する仕組みで、多くの自治体がこの制度を導入しています。これにより、空き家を探している人がスムーズに物件情報を得られるようになり、地域への移住を促進する効果が期待されています。 空き家バンクでは、単なる物件情報の提供だけでなく、購入や賃貸に関する 補助金制度 や リノベーションの支援策 を設けているケースも多く見られます。このような 取り組みにより、空き家の有効活用が進み、地域の活性化につながるとされています。
さまざまな自治体が空き家バンクなどを活用した独自の工夫を凝らし、空き家問題に取り組んでいます。
小田原市では、ワンストップ空き家相談窓口を設置し、宅建協会や士業団体と協定を結ぶことで、市内の不動産無料診断制度を導入しています。この取り組みにより、空き家所有者が適切に管理を行うためのサポートを強化し、相談内容に幅広く対応できる体制を整えています。また、空き家所有者への意識啓発活動としてアンケート調査を実施し、管理や利活用を希望する層への働きかけを行っています。
世田谷区では、民間との連携を強化し、空き家の処分や利活用の相談を一元的に受け付けるインターネット相談窓口を設置しています。相談内容に応じて、専門のアドバイザーが適切な地元事業者とのマッチングを支援することで、相談者の心理的負担を軽減し、効率的なサポートを実現しています。
真鶴町では、空き家バンクの運営を地元の団体に委託しています。この団体は、移住希望者とのマッチングを行うだけでなく、SNSの活用や交流拠点の運営を通じて、移住者のコミュニティ形成を支援しています。このように、 地元に根差した活動を取り入れることで、空き家問題の解決と地域の活性化を図っています。
渋川市では、農地付き空き家バンクを創設し、農地と空き家を一体で売買できる制度を導入しました。この取り組みにより、農業に興味を持つ移住希望者を呼び込み、同時に遊休農地の解消を目指しています。この一体的なアプローチは、空き家問題の解決と農業の活性化の両方に寄与しています。
早川町では、空き家の適正管理を進めるため、シルバー人材センターと協力し、空き家の現状確認や除草、植木の剪定などを行う体制を整えています。また、地域の宿泊施設の運営を民間へ打診し、ブランディング力やマーケティング力を活かして経営の改善を進めています。これにより、空き家や空き施設の利活用を通じて地域の活性化を目指しています。
香取市では、空き家の解体や処分に係る相談に対応するため、民間企業と連携し、市民からの空き家に関する通報や問い合わせにオンライン上で対応できる仕組みを導入しています。このようにDX(デジタルトランスフォーメーション)を活用し、自治体の業務効率を向上させつつ、市民へのサポートを強化しています。
小山市では、小山高専の学生と連携し、空き家バンクのウェブサイトをリニューアルしました。学生が空き家の実態調査を行い、さらにそのデータを元に空き家の利活用提案を行っています。この連携により、学生のアイデアを取り入れた利活用案が実現され、成約件数の増加につながっています。
空き家問題の背景には、高齢化と相続問題が大きく関わっています。高齢者が亡くなった後に、その住宅をどう処理するかが課題となり、これが未解決のまま放置されると空き家が増加します。そこで、終活の一環として自分の住宅や資産の整理を 生前整理 することが推奨されます。 具体的には、以下のような対策が考えられます。
高齢になり、家の管理が難しくなった場合、よりコンパクトな住宅や老人ホームへの移住を検討し、元の家を売却することで空き家化を防ぐことができます。自治体や不動産業者との連携も重要です。
相続の際に空き家となるリスクを減らすため、生前に遺言を作成し、住宅の取り扱いを明確にしておくことが必要です。家族との話し合いを通じて、相続人に管理の意向や負担を伝えておくことが大切です。
家族信託を活用することで、家の管理を次の世代にスムーズに移行することができます。これにより、所有者の意向を反映させつつ、空き家化を未然に防ぐことが可能です。
空き家問題は、全国的に深刻化している社会課題です。空き家を放置すれば、地域の治安や景観が損なわれ、結果的に多くの人々に迷惑をかけることになります。特に相続で発生する空き家には注意が必要です。 「早めの対応」 が空き家問題解決のカギとなります。空家法の改正による強化された対策と終活の視点を活用して、適切な空き家管理を進めていきましょう。 (参照:https://www.gov-online.go.jp/article/202403/entry-5949.html、国土交通省 関東地方整備局「地方公共団体における空き家対策の実例集」)
国土交通省 関東地方整備局「地方公共団体における空き家対策の実例集」
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