2024.10.21
遺言書を作成することは、遺産分割を円滑に進め、相続人間のトラブルを避けるために非常に重要です。遺言の中でも、「特定財産承継遺言」と「特定遺贈」は、財産の分配方法に大きな影響を与える形式です。今回は、それぞれの定義と違いを解説し、具体的な事例を通じて理解を深めていきます。
特定財産承継遺言とは、遺言者が特定の相続人に対して特定の財産を相続させることを明示する遺言です。この形式では、遺言書に記載された財産に関しては、他の相続人の同意や協力を得ることなく、指定された相続人が直接その財産を受け取ることができます。遺産分割協議が不要になるため、相続手続きがスムーズに進みます。 たとえば、次のような形で遺言書が作成されます。 ・「長男○○太郎に、私が所有する東京都世田谷区○○丁目○番地の自宅を相続させる」 ・「長女○○花子に、三菱UFJ銀行○○支店の定期預金口座(口座番号:〇〇〇〇〇)にある預金500万円を相続させる」 このように、具体的な財産と相続人を明確に指定することで、他の相続人との協議なしに、名義変更や財産の引き継ぎ手続きを進めることが可能です。
特定遺贈とは、相続人ではない第三者(受遺者)に対して特定の財産を遺贈することを指定する遺言です。特定遺贈では、受遺者が遺産を受け取る際に、相続人の同意や協力を得る必要がなく、遺言書に記載された指示に基づいて財産を直接引き継ぎます。遺贈の対象には、友人や慈善団体など、法定相続人ではない人々や団体が含まれます。 たとえば、次のような内容が該当します。 ・「親友である田中一郎に、私の愛用する腕時計を遺贈する」 ・「○○福祉財団に、私が所有する○○株式会社の株式100株を遺贈する」 このように 、特定遺贈を通じて、相続人ではない人々や団体に遺産を渡すことが可能です。遺産分割協議を必要としないため、遺言者の意思がスムーズに実行されます。
特定財産承継遺言と特定遺贈には、主に受け取る人物に関して違いがあります。
遺産を受け取るのは法定相続人です。遺言者は、特定の相続人(たとえば子供や配偶者)に対して、特定の財産を相続させることを指示します。この場合、相続人間での協議を必要とせず、指定された財産を直接相続します。
遺産を受け取るのは相続人ではない受遺者(たとえば友人や団体)です。遺言者は、相続権を持たない第三者に対して特定の財産を譲り渡すことができます。受遺者が財産を受け取る場合も、相続人との協議を必要とせず、遺言に基づいて遺贈が実行されます。
次に、特定財産承継遺言と特定遺贈の違いを、具体的な事例でわかりやすく説明します。 【特定財産承継遺言の具体例】 「次男○○次郎に、私が所有する神奈川県横浜市中区○○丁目○番地のマンションを相続させる」 「次女○○美咲に、私が所有する山梨県北杜市にある別荘を相続させる」 このように、法定相続人に対し、特定の財産を相続させる際には、特定財産承継遺言が有効です。 【特 定遺贈の具体例】 「友人である山田一郎に、私が所有するアンティークのカメラを遺贈する」 「○○こども支援団体に、私が所有する株式会社△△の株式150株を遺贈する」 このように、法定相続人ではない人に自身の遺産を渡したい場合には、「特定遺贈」という形式で渡すこととなります。
特定財産承継遺言は、相続人に対して特定の財産を円滑に相続させたい場合に有効です。たとえば、不動産のように分割が難しい財産を特定の相続人に引き継がせる場合や、遺産分割におけるトラブルを防ぎたい場合に活用されます。この遺言があることで、名義変更や財産の引き継ぎが迅速に進められるという大きな利点があります。 特定遺贈は、相続人以外の大切な人物や団体に財産を遺贈したい場合に用いられます。たとえば、長年の親友や支援してきた団体に対して感謝の気持ちを込めて特定の財産を贈る際に有効です。相続人以外の第三者が遺産を受け取る手段として、特定遺贈は広く利用されています。
遺留分とは、法定相続人が法律によって保証されている最低限の取り分です。遺言者が遺言書で特定の財産を相続させたり遺贈したりする場合でも、遺留分を侵害しない範囲で行う必要があります。 遺留分は、以下の相続人に対して保障されています: ・配偶者 ・子供( 直系卑属) ・親(直系尊属) たとえば、特定の相続人に過度な財産を相続させたり、受遺者に多くの財産を遺贈した場合、他の相続人の遺留分が侵害されることがあります。この場合、遺留分を侵害された相続人は、遺留分減殺請求を行い、遺留分の取り戻しを請求することが可能です。
たとえば、遺言者が全財産を親友に遺贈するという内容の遺言を残した場合でも、子供や配偶者の遺留分が侵害されていれば、遺言がそのまま実行されない可能性があります。遺留分を無視した遺言は、法的な争いに発展しやすいため、遺言書を作成する際には遺留分に十分配慮することが重要です。
遺留分については、別記事にて詳しく解説していますので、そちらも併せてご覧ください。
遺留分と遺留分侵害額請求を徹底解説!相続トラブルを避けるための実践ガイド
特定財産承継遺言と特定遺贈は、遺言者の意思を尊重し、財産を適切に分配するための重要な手段です。特定財産承継遺言は法定相続人に対して特定の財産を相続させるために使われ、遺産分割協議を必要としない点でメリットがあります。一方、特定遺贈は、相続人以外の人や団体に対して財産を譲り渡す際に有効です。 ただし、遺言書作成時には遺留分に注意し、法定相続人の権利を侵害しないように配慮する必要があります。遺留分に十分注意した上で、特定財産承継遺言や特定遺贈を適切に活用することで、遺族や関係者に対する最大限の配慮を示し、スムーズな相続手続きを進めることが可能です。
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