2025.4.8
遺贈とは?種類と仕組みを解説
遺贈の種類
遺贈の流れ
1. 遺言書の作成
2. 受遺者の確認と受け入れ意思の確認
3. 遺言の執行
4. 財産の引き渡しと名義変更
遺贈を受け取れるのは誰か? 受け取りを拒否することは可能か?
遺贈にかかる税金と相続税の基本
遺贈した場合、税金がかかるのは誰か?
遺贈には贈与税ではなく、相続税がかかる理由
相続税以外でかかる可能性がある税金
遺贈で取得した財産の相続税の計算方法
遺贈寄付の種類と進め方
遺贈寄付の種類
遺贈寄付が行われた場合の相続税の取り扱い
遺贈寄付を行うメリット
遺贈寄付する手続きの流れ
公的機関への金銭寄付で注意すべき点
公的機関への遺贈寄付と相続税の非課税制度
公益法人等に現金を遺贈した場合、相続税は非課税
相続税が非課税になるための要件
非課税特例が適用されないケース(注意)
まとめ
近年、日本国内において「遺贈による寄付」の件数が大きく増加しています。かつては相続といえば家族や親族に財産を分配するのが一般的でしたが、現代ではその価値観に変化が生じており、「自らの財産を社会のために使ってほしい」と願う人が増えているのです。 この動きの背景には、いくつかの社会的・心理的要因が関係していると考えられます。第一に挙げられるのが、高齢化の進展と終活意識の高まりです。人生100年時代を迎え、多くの高齢者が老後の生活設計や死後の手続きを自分で考えるようになっています。その中で、「遺言書を書いておく」「葬儀や墓の準備をする」といった準備の一環として、「遺贈で寄付をする」という選択肢に関心が集まってきています。 また、実際の事例を見ても、子どもがいない、あるいは相続人との関係性が相対的に希薄なケースにおいて、築き上げた財産を公共のために役立てたいという思いから、遺贈寄付を選ぶ人が一定数存在しています。地域の文化施設、自然保護団体などに対して遺贈された資産が、施設の整備や、地域住民や子どもたち に向けた公開イベント・講座の開催などに活用されている例も報告されています。 こうした遺贈は、寄付者の価値観や人生観を反映し、死後もその意志を社会に残す手段として注目されています。単なる財産の移転ではなく、「自分らしい最期の社会貢献」としての遺贈寄付は、今後ますます広がりを見せるでしょう。
「遺贈」とは、被相続人(故人)が遺言によって自身の財産の一部または全部を、相続人や第三者に譲る行為を指します。これは、民法第964条に基づき明文化された制度であり、個人の最終的な意思表示として法的効力を持ちます。通常の相続と異なり、「遺贈」は遺言書によって明示されるため、誰に、どの財産を、どのように譲るかを本人が自由に決められる点が特徴です。 遺贈は、近年の終活意識の高まりと共に注目を集めており、財産を血縁者に留めるのではなく、広く社会に還元したいという価値観の変化の中で、その活用が広がりを見せています。特に、社会貢献を目的とした遺贈寄付という形が多く見られ、個人の思いが地域や公益のために生かされる重要な手段となりつつあります。
遺贈には大きく分けて2つの形式があり、それぞれ法律的な意味や実務上の扱いが異なります。正確な理解は、遺言書を作成する際にも、受遺者が対応する際にも不可欠です。
1. 包括遺贈(ほうかついぞう) 包括遺贈とは、被相続人の全財産または一定割合を包括的に譲る形式です。たとえば、「私の全財産の3分の1を〇〇団体に遺贈する」といった内容が該当します。 この形式では、受遺者は相続人と同じような立場となり、相続財産の取得に加えて債務(借金や未払い金)も相続する義務が生じるため、注意が必要です。また、相続開始後に家庭裁判所の許可を得て相続放棄することも可能ですが、原則として債務も含めて承継されることを念頭に置く必要があります。 包括遺贈のメリットは、遺言者が財産の詳細な内訳を指定しなくても遺志を示せる点にあります。一方で、受け取る側にとっては財産の範囲や内容が不透明になるリスクもあり、事前の確認や信頼関係の構築が不可欠です。 2. 特定遺贈(とくていいぞう) 特定遺贈は、遺贈する財産を具体的に特定した上で譲渡する方法です。たとえば、「東京都内の不動産をAに遺贈する」「〇〇銀行の口座にある預金を〇〇団体に遺贈する」といったケースがこれにあたります。 特定遺贈では、債務の承継はなく、指定された財産だけが移転対象となります。そのため、遺贈を受ける側にとっては管理や受け入れがしやすく、リスクも比較的低いのが特徴です。遺贈寄付の多くはこの特定遺贈の形で行われており、団体側も受け入れ体制を整えている場合が増えています。 ただし、遺言書で特定された財産がすでに処分されていたり、他人と共有していたりする場合は、遺贈の効力が失われることもあります。遺言書作成時には、財産の現況を把握し、記載内容を明確にすることが重要です。
遺贈は、単に遺言書を残せば完了するというものではなく、遺言の作成、受遺者との確認、遺言執行、財産の移転という複数の段階を経て初めて成立します。以下に、一般的な流れを4つのステップに分けて詳しく解説します。
遺贈の実行には、まず法的に有効な形式で遺言書を作成する必要があります。遺言書の種類には以下の3つがあります: 1.自筆証書遺言(じひつしょうしょゆいごん) 特徴 ・遺言者が全文、日付、氏名をすべて自筆で記し、押印します。 ・2020年の法改正により、財産目録についてはパソコン作成可となり、署名・押印で有効に。 ・費用はかからず、手軽に作成できる反面、紛失や改ざんのリスクがあります。 法務局の「自筆証書遺言保管制度」を利用すれば、安全に保管可能です。 2.公正証書遺言(こうせいしょうしょゆいごん) 特徴 ・公証人が作成し、公証役場で保管されるため、最も安全かつ確実です。 ・証人2名が必要で、相続人などの利害関係者はなれません。 ・費用はかかるものの、無効のリスクがほぼゼロで、スムーズな執行が可能です。 3.秘密証書遺言(ひみつしょうしょゆいごん) 特徴 ・内容を誰にも知られず作成できますが、公証役場で封印・手続きが必要です。 ・紛失や無効化のリスクはあるものの、遺言の存在が公的に証明されるメリ ットがあります。 ・実務上はあまり用いられず、自筆と公正の中間的な形式とされています。 遺贈を確実に実現したい場合は、公正証書遺言の作成が最も推奨されます。
遺贈を予定する相手が、その財産を受け入れる意思があるかどうかを確認しておくことも重要です。特に法人や団体、自治体などを受遺者に指定する場合、受け入れ体制や内部規程の確認が必要になるケースがあります。 たとえば、老朽化した不動産や維持コストのかかる資産などを遺贈された場合、受遺者側が受け取りを辞退することも可能です。特定遺贈であれば、書面等で意思を明確に示すことで受け取りを拒否できます。包括遺贈の場合は、家庭裁判所に相続放棄の申述を行う必要があります。
被相続人が亡くなった後、遺言書が開封され、その内容に基づいて手続きが進められます。この段階で登場するのが「遺言執行者」です。 遺言執行者は、遺言の内容を実現する責任者であり、遺言書で指定されるか、家庭裁判所によって選任されます。 執行者は以下のような業務を担います ・財産目録の作成 ・不動産・預貯金等の名義変更 ・税金の申告と納付 ・必要書類の取得と提出 法律や税務の専門知識が求められるため、弁護士や司法書士などの専門家が選ばれることが多いです。 スムーズな執行のためにも、遺言書の段階で信頼できる人物または専門家を遺言執行者に指名しておくことが推奨されます。
遺言の内容に基づいて、遺贈対象となる財産の引き渡しと名義変更の手続きが行われます。財産の種類によって具体的な手続きは異なります ・不動産の場合:法務局で所有権移転登記を行う必要があります。必要書類には、遺言書の写し、遺言執行者の選任証明、印鑑証明書などが含まれます。 ・預貯金の場合:金融機関にて、遺言書や戸籍謄本、受遺者の本人確認書類を提出し、名義変更または払い戻しの手続きをします。 ・株式や有価証券の場合:証券会社または株主名簿管理人の手続きに従い、名義の変更を行います。 これらの手続きが完了した時点で、遺贈が正式に成立します。あわせて、相続税の申告や納付、登録免許税などの税金・手数料も発生するため、専門家の助けを借りて対応するのが一般的です。
遺贈は、基本的に相続人・非相続人を問わず、個人・法人を含めて誰に対しても指定が可能です。被相続人が遺言書において明確に意思を示していれば、その対象が親族であろうと赤の他人であろうと、あるいはNPO法人や自治体であろうと、遺贈の指定は有効です。 特に近年では、社会的な活動を行っている公益団体や教育・福祉機関などへの遺贈寄付が増えており、個人以外の法人等への遺贈も現実的な選択肢として定着しつつあります。 一方で、遺贈を受け取る側には、その受け取りを拒否する権利があります。遺贈は強制ではなく、あくまで受遺者(遺贈される人・団体)の意思によって成立します。拒否する際は、明確な拒絶の意思表示が必要で、相続開始後(被相続人の死亡後)に書面等でその意志を示せば、原則として有効です。 受け取りを拒否する主な理由としては: ・対象財産に債務や管理責任が伴う(例:老朽化した不動産) ・組織としてのポリシーや運営方針にそぐわない ・税務上または法務上のリスクがある ・寄付の目的が明確でない、または調整が困難 などが挙げられます。 なお、包括遺贈を受けた場合には、債務も引き継ぐことになるため、特に注意が必要です。この場合には、相続人と同様に家庭裁判所への「相続放棄」の申述によって拒否の手続きを行うことになります。特定遺贈の場合には、特別な手続きは不要で、書面での拒否意思の通知で足ります。
まず大前提として、遺贈において税金を支払う義務があるのは、財産を「受け取った側」です。つまり、遺言により財産を譲り受けた個人または法人が納税者となります。 ・遺贈を行った被相続人には税金の負担は発生しません。 ・財産を譲り受けた個人・団体が相続税の申告と納付を行う義務を負います。 この点は、贈与と決定的に異なる部分です。贈与では、贈与された側が贈与税を負担しますが、遺贈では相続税が適用され、贈与税は課税されません。