社葬とは?当日の流れから担当者が準備しておくべきことまで徹底解説!

2025.3.28

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目次

社葬と一般葬の違い

「社葬」と「一般葬」はどちらも故人を偲び、見送るための儀式ですが、その目的や主体、参加者の範囲、運営方法などに大きな違いがあります。葬儀の形態として正しく理解しておくことは、担当者や参列者にとって非常に重要です。

主催者の違い

一般葬は、故人の遺族が主催し、家族や親族、親しい友人などが中心となって行います。一方、社葬は企業や団体が主催するもので、会社として故人の功績を称え、社会的な弔意を表すための儀式です。 社葬では、遺族は形式上「喪主」として参列しますが、実際の運営や段取りは企業が取り仕切ります。これは企業にとって、故人の社会的立場や会社への貢献を公に示す重要な機会とされているからです。

葬儀の目的と意義の違い

一般葬の主な目的は、個人の死を悼み、家族や親族、友人たちとともに別れを告げることです。私的な空間で行われることが多く、宗教的な儀式や故人の信条に基づいた形式が重視されます。 一方で社葬は、企業が社会的責任として執り行う公的な行事です。故人が果たした役割や功績を社内外に広く伝え、取引先や関係者に正式な場で弔意を示す場でもあります。企業イメージや社会的信頼の構築という側面も持ち合わせています。

参列者の範囲と規模の違い

一般葬は親族・知人中心で、参加者の規模も限られることが一般的です。一方社葬は、社内の関係者はもちろん、取引先、株主、業界関係者、時には地域住民やメディアなど、多方面からの参列者を迎える大規模な葬儀になることもあります。 そのため、社葬では参列者リストの管理や招待状の手配、受付体制の整備など、事務的な準備が非常に重要になります。

費用の負担者の違い

一般葬の費用は基本的に遺族が負担します。しかし社葬では、費用の多くを企業が負担します。香典返しや案内状印刷、会場設営費、交通誘導、宗教者への謝礼など、予算も高額になりやすいため、費用管理と会計処理も重要なポイントです。 また、社葬の一部に「合同葬」という形式もあり、遺族と企業が共同で主催するケースもあります。この場合、費用負担や葬儀運営をどう分担するか明確にしておく必要があります。

儀礼の形式と運営体制の違い

一般葬では、儀式の内容や進行は家族や親族の意向を中心に決められ、形式にも自由度があります。しかし社葬は、儀式の流れや内容において、会社としての公式性が求められ、形式的・儀礼的な側面が強くなります。 たとえば、葬儀委員長の挨拶、取締役会による決定、社内外の通知文の発行など、企業活動の延長線上で行われるため、広報的な観点も含めた運営が求められます。

社葬の施主と喪主、葬儀委員長の違い

社葬を円滑に執り行うためには、関係者の役割を正しく理解し、それぞれの立場に応じた対応を行うことが不可欠です。中でも混同されやすいのが、「施主」「喪主」「葬儀委員長」の3つの役職です。それぞれの違いを明確に把握することで、組織としての動きに一貫性が生まれ、遺族との連携や式典の進行もスムーズになります。

施主とは何か?

「施主」とは、葬儀を主催する主体を意味します。一般葬では遺族、主に配偶者や子が施主を務めますが、社葬においては企業や団体が施主となります。つまり、葬儀全体の責任者であり、社葬の開催を決定し、その費用も基本的には企業側が負担するという立場です。 施主である企業は、故人の功績を称える場として社葬を企画・実施し、社内外の関係者に弔意を表明します。この役割には、会社の代表者(通常は社長や会長)が名を連ね、案内状や式次第など公式文書にその名前が記載されることが一般的です。

喪主の役割と位置づけ

「喪主」は、遺族代表として故人を見送る立場です。一般葬においては喪主が葬儀全体の責任を持ちますが、社葬ではあくまで遺族としての役割を果たすことになります。たとえば、焼香や献花の際の先導、会葬者への挨拶、香典返しの対象者リスト作成などを行います。 社葬では主催が企業であるため、喪主は「家族としての立場」で葬儀に参列するにとどまりますが、遺族の意向を式の内容に反映させるなど、企業側との連携が非常に重要です。特に宗教儀式の内容や故人の遺志に関わる部分は、喪主との協議によって決定されるべきです。

葬儀委員長の役割と重要性

「葬儀委員長」は、社葬の実務面での最高責任者です。施主である企業の代表に代わって、実際の葬儀の準備・運営を統括します。通常は役員や幹部社員の中から任命され、社葬当日は進行全体の司令塔として、スタッフの指示、会葬者対応、予定通りの運営などを管理します。 葬儀委員長はまた、式典の冒頭で弔辞や開式の挨拶を行う重要な役割も担います。その言葉は、企業としての公式な「別れの辞」として位置づけられ、社内外に強いメッセージを発信します。

三者の連携が社葬成功のカギ

このように、「施主=主催者(企業)」、「喪主=遺族代表」、「葬儀委員長=実務統括者」という立場の違いを明確にしつつ、それぞれが連携して動くことが、社葬を円滑に成功させるうえで欠かせません。 企業は形式的な対応だけでなく、喪主や遺族との信頼関係を保ちつつ、葬儀委員長が中心となって社内の動きを統率することで、滞りのない進行と品位ある儀式を実現することができます。

社葬の流れ

社葬は通常の葬儀に比べて関係者が多く、手続きや準備項目も多岐にわたります。そのため、進行にミスがないよう事前に全体の流れを理解し、計画的に対応することが求められます。ここでは、社葬の代表的なステップを順に解説します。

遺族の意向の確認

社葬の実施にあたり、最初に行うべきは遺族への確認です。どんなに社内で社葬を行いたいという意向が強くても、遺族の了承なしに進めることはできません。遺族にとって、社葬という形式が精神的な負担にならないか、宗教的・文化的な配慮が必要ないかなど、丁寧なヒアリングが重要です。 また、社葬と一般葬を別日で行うか、合同葬にするかという形式面についても、遺族の希望に寄り添って決定することが望まれます。

臨時役員会の開催

遺族からの了承を得た後は、社内で臨時役員会を開催し、社葬の実施を正式に決定します。ここでは以下のような事項が審議されます: ・社葬実施の可否 ・実施の形式(単独葬・合同葬) ・予算枠の設定 ・葬儀委員長の任命 ・日程の大枠 ・社内対応体制の構築 この会議での決定が、社葬準備の起点となります。

社内外への通知

社葬の実施が決定したら、社内への周知とともに、取引先・関係者への通知文書の準備を行います。通知には以下のような情報が含まれます: ・故人の氏名・役職 ・社葬の日時・場所 ・会場までのアクセス案内 ・香典・供花の受取方針 ・弔電・供花の宛先 案内状の送付対象は、社員、OB・OG、主要取引先、業界団体、地域関係者など、多岐にわたるため、社内で送付リストを正確に整備する必要があります。

リハーサル

社葬前日もしくは当日の早朝に、式典の進行を確認するためのリハーサルを行います。リハーサルは以下の観点で実施されます: ・式次第に沿った時間配分の確認 ・葬儀委員長、司会者、進行補助スタッフの動線チェック ・焼香・献花・弔辞などの段取り ・音響・照明・映像設備の動作確認 特に、弔辞の順番や役職に応じた座席配置など、細かい儀礼面での確認が不可欠です。トラブル防止のため、複数名のチェック体制を敷くことが望ましいです。

社葬当日

社葬当日は、事前に決められた進行に基づいて式が進められます。代表的な流れは以下の通りです:

社葬当日の流れ

1.受付開始(香典・記帳対応) 2.参列者入場・着席 3.開式の辞 4.葬儀委員長による挨拶 5.弔辞・弔電の紹介 6.焼香または献花の実施 7.遺族代表の挨拶 8.閉式の辞 9.退出誘導・会場後片付け

受付や案内係、警備、通訳(必要な場合)などのスタッフ配置も事前に手配しておく必要があります。また、万が一の天候不良や機材トラブルに備えて、バックアッププランを用意しておくことが推奨されます

事前準備 – 社葬で決定すべき事項

社葬を円滑かつ厳粛に執り行うためには、事前準備が何よりも重要です。準備段階では、多くの意思決定や社内外との調整が必要となります。このセクションでは、社葬実施に際して事前に決めておくべき事項を順を追って詳しく解説します。

社葬のコンセプトの策定

社葬の目的や方向性を明確にすることが、全体の準備をスムーズに進める第一歩です。たとえば以下のようなコンセプトを検討します: ・「故人の功績を社員に伝える式典」 ・「取引先へ感謝を伝える社会的イベント」 ・「会社の理念と歴史を体現する追悼の場」 このようなコンセプトは、式典の雰囲気や演出、内容構成に大きく影響を与えます。

葬儀委員長の決定

社葬の実務的責任者として、葬儀委員長を早期に選任する必要があります。通常は取締役や役員クラスから選ばれ、社葬当日には挨拶や進行統括などを担います。経験や社内外の信頼性も考慮して適任者を選びましょう。

参列者の決定

社葬の規模や形式に応じて、参列者リストを作成します。主な対象は以下のとおりです: ・社員(現職・OB) ・取引先・顧客 ・業界団体・行政関係者 ・メディア(公開形式の場合) 参列者数が式場選定にも影響するため、可能な限り早い段階で見積もることが重要です。

形式・名称の決定

社葬の形式は大きく分けて以下の種類があります: ・社葬(企業単独主催) ・合同葬(遺族と企業の共同主催) ・お別れの会(宗教色を排除した自由形式) また、案内状や看板に記載される「〇〇氏 社葬」などの名称も、企業としての姿勢を示すポイントとなります。

日程の決定

日程選定は以下の点に留意して行います: ・遺族や宗教者の都合 ・関係者が集まりやすい曜日・時間帯 ・重要な社内行事や業務スケジュールとの重複回避 会場の空き状況も考慮し、柔軟な調整が求められます。

会場の決定

会場選びは社葬の印象を大きく左右します。式場、ホテル、社内ホール、公会堂などが選択肢になります。選定においては以下を確認しましょう: ・アクセスの利便性 ・収容人数と動線 ・宗教儀礼への対応可否 ・設備(音響・控室・駐車場など) 契約前には必ず現地を確認し、詳細な打ち合わせを行いましょう。

宗教者の決定

社葬に宗教儀礼を含める場合は、宗派に応じた宗教者の手配が必要です。遺族の宗教観や故人の信仰に配慮した上で、企業としての姿勢にふさわしい進行が求められます。 菩提寺がある場合は、遺族と相談して依頼し、ない場合は企業側で紹介・選定を行います。

香典や供花への対応の決定

社葬では香典や供花に対する企業としての方針を明確にしておく必要があります。主な選択肢は以下のとおりです: ・香典・供花を一切辞退 ・香典のみ受領、供花は辞退 ・両方受け付け、礼状・返礼品を用意 案内状や受付での案内にも関わるため、方針決定は早めに行いましょう。

社葬マニュアルの作成

社葬マニュアルは、葬儀全体の流れや役割分担を可視化するための重要な資料です。以下のような内容を盛り込みます: ・進行タイムテーブル ・各部署・担当者の業務一覧 ・参列者対応のフロー ・不測の事態への対処マニュアル 作成後は関係者への周知とリハーサルでの確認を徹底しましょう。

社葬連絡簿の作成

社葬連絡簿は、準備・実施に関わる連絡事項を一元管理するためのツールです。関係者の連絡先、業者とのやり取り、進捗確認メモなどを記録します。デジタルツール(Googleスプレッドシート等)を活用すれば、リアルタイムの共有も可能です。

緊急連絡体制、緊急連絡網

突発的な変更やトラブル発生時に即時対応するため、社内外の関係者間で緊急連絡網を構築しておきます。代表番号・携帯電話・メールアドレスの一覧化、連絡順位の設定が必須です。 災害や事故など、社葬そのものが延期・中止になるリスクも想定し、緊急対応マニュアルも合わせて整備しておくと安心です。

葬儀社の選定

社葬は通常の葬儀と異なり規模が大きいため、社葬に精通した葬儀社を選ぶことが大切です。選定時には以下をチェックします: ・社葬の実績と対応能力 ・担当者の専門性と柔軟性 ・費用の明確さ ・会場との調整経験 可能であれば複数社から見積もりを取り、提案内容を比較検討しましょう。

社葬にかかる費用の内訳

社葬は企業が主催する葬儀であり、関係者の人数や儀礼の厳粛さから、費用が大規模になる傾向があります。ここでは、社葬にかかる費用の具体的な内訳と、それぞれの費目の管理上の注意点を詳しく解説します。

1. 会場使用料

社葬の規模や形式によって、会場費は大きく変動します。貸しホール、ホテルの宴会場、公会堂、寺院の本堂などが候補になります。料金は1日あたり数十万円から、都心や大型会場では100万円を超えることもあります。 ・控室、音響設備、照明、受付スペースの利用料が別途加算されるケースも。 ・式場と会食会場を分ける場合、それぞれの費用を明確にしておくことが重要です。

2. 祭壇設営費・装花費

祭壇は社葬の象徴ともいえる存在で、規模に応じて大きく費用が異なります。会社ロゴを取り入れた特注デザインや、宗教的儀礼に合わせた形式を採用することもあります。 ・一般的な社葬では30万円〜100万円程度。 ・装花費には受付花、供花スタンド、会場内装飾が含まれます。

3. 印刷・案内状関連費用

案内状の作成・郵送、式次第・席次表の印刷なども費用に含まれます。 案内状:1通あたり100〜300円(用紙代・印刷・封入・郵送費含む) 席次表・式次第:1セットあたり数百円 対象者が多い場合は合計数十万円規模に。 社外宛の案内には、社名やロゴを使ったフォーマルなデザインが好まれます。

4. 宗教者への謝礼(お布施)

宗教儀礼を行う場合、宗教者への謝礼(いわゆるお布施)が発生します。これは金額が明確に決まっていない場合が多く、相場を把握しづらい費目です。 ・仏式での読経料:10万円〜30万円程度 ・キリスト教・神道でも謝礼相場あり 領収書が発行されないことが多いため、後述の「領収書をもらいにくい費用の取扱い」で詳述します

5. 接待・会食費(通夜振る舞い等)

参列者への飲食接待費も、社葬では重要な費用項目の一つです。 ・通夜振る舞い(軽食):1人あたり2,000〜5,000円 ・精進落とし(正式な会食):1人あたり5,000〜10,000円 参列者の人数に応じて大きく変動し、総額で100万円以上になる場合もあります。ケータリングやホテルレストランとの連携も必要です。

6. 香典返し・礼状関連

香典を受け取る場合は、香典返し(返礼品)と礼状の準備が必要です。 ・香典返し:1件あたり3,000〜5,000円が一般的 ・礼状:返礼品に同封する簡易礼状〜手書きの礼状まで形式により異なる 香典辞退方針を採る場合はこの費用は発生しませんが、決定前に計算しておくと予算管理が楽になります。

7. 式典運営スタッフ・進行費用

葬儀社の手配する運営スタッフ(受付、案内、誘導など)の費用も考慮が必要です。司会者、音響スタッフ、警備員なども含まれます。 ・式典運営費用:全体で20万円〜50万円程度 ・司会者単体で5万円〜10万円程度 自社社員を配置する場合は人件費に含めるかどうかの判断も必要です。

8. 会場設営・備品レンタル

椅子、テント、照明、映像設備、音響機器などの設営・レンタル費も発生します。 ・プロジェクター、スクリーン:5万円前後 ・大型テント・椅子・テーブル:数十万円規模 屋外開催時は天候対応費用も別途考慮します。

9. 記録・広報費用(写真・映像・プレス対応)

近年は社葬の様子を記録・社内外共有する企業も増えており、写真・映像記録を専門業者に依頼するケースがあります。 ・写真撮影:3万円〜10万円 ・映像収録・編集:10万円〜30万円 ・プレスリリース作成・発信:5万円前後(外注時) 社外向けに動画を編集し、企業公式YouTubeチャンネルにアップロードする事例もあります。

寺院へのお礼など、領収書をもらいにくい費用の取扱い

社葬においては、葬儀社や会場など法人向けにサービスを提供する業者が多く、通常は領収書の発行が可能です。しかし、宗教者への謝礼や心づけなど、慣習的に「領収書を発行しない(またはできない)」費用も発生します。これらの費用の扱い方を誤ると、会計処理上のトラブルや税務調査時の指摘対象となる恐れもあるため、正しい対応を理解しておくことが重要です。

宗教者へのお布施・謝礼

仏式葬儀では僧侶への「お布施」、神道では神職への「玉串料」、キリスト教では神父や牧師への「献金」などがそれにあたります。これらは宗教的な意味合いを持つため、商取引とはみなされず、領収書が発行されないケースが一般的です。 しかし、企業会計では費用支出を証明する書類が必要なため、以下のような対応を検討しましょう: ・支出証明書を自社で作成  「お布施支払報告書」などの内部資料を作り、支出の目的、日付、金額、相手先名称(〇〇寺など)を記載する。 ・封筒写しの保管 現金封筒の表書き(例:「御布施」)のコピーや写真を添付資料として保管する。 ・領収書の簡易発行依頼 僧侶に依頼すれば、簡易的な領収書(但し書き:お布施、収受者名の記載のみ)を用意してくれる場合もある。 これらの補足資料があれば、税務上の説明責任を果たしやすくなります。

心づけ(葬儀社スタッフ、会場係員など)

スタッフへの「心づけ」(チップ)は、日本では慣例的に行われているものの、会計上の「福利厚生費」や「雑費」に該当する扱いとなる場合があります。問題はやはり、領収書が発行されにくいという点です。 この場合も以下の対応が有効です ・誰に・いくら・いつ渡したかをメモとして残す ・支払責任者(総務部長など)による支出確認書を添付 ・小口現金の出金伝票に記録を残し、心づけであることを明記 税務上、金額が大きくなると交際費や報酬とみなされる可能性もあるため、適切な分類と目的説明が重要です。

税務リスクを回避するための基本姿勢

企業が社葬費用を経費処理する際、特に領収書のない支出は税務署にとって「見えにくい費用」となりがちです。だからこそ、次の3点が重要です 1.目的の明確化:「社葬実施に必要な宗教儀礼費」「会場スタッフへの感謝」といった記録。 2.金額の妥当性:過度な金額にならないよう注意。相場を把握する。 3.社内ルールの整備:社葬規定や経費処理規定に、こうした費用の扱いを明文化しておく。 企業の社会的信用やガバナンスが問われる場面でもあるため、「宗教的・文化的慣習」と「企業会計の透明性」の両立が求められます。

遺族が負担すべき費用を法人が支払った場合

社葬を執り行う中で、企業が本来遺族の負担とされる費用を代わりに支払う場面があります。たとえば、遺族が準備した返礼品、僧侶へのお布施、個人的な弔問客用の会食費などが該当します。こうした費用を法人が肩代わりする場合には、税務上・会計上の処理や法律的な判断が伴うため、慎重な対応が求められます。

どこまでが「法人負担」として妥当か?

企業が負担してよい社葬費用とは、原則として業務上必要な支出に限られます。具体的には以下のような項目が該当します: ・会場費、祭壇費、供花、案内状作成など、企業としての対外対応 ・式典運営費(葬儀委員長挨拶、参列者対応、社内通知) 一方で以下のような遺族の私的な性質が強い費用は、法人が支払うと問題になる可能性があります: 遺族個人が受け取る香典返しの費用 ・遺族の親族・友人に対する会食代 ・葬儀後の法要や納骨など、宗教行事関連費用 ・これらを法人が負担した場合、遺族に対する経済的利益の供与とみなされ、贈与税の対象になる場合や、法人側の費用計上が否認される恐れもあります。

税務上の注意点

法人が遺族負担分を支払う場合、次の税務リスクが生じます: ・役員等の遺族の場合:役員報酬扱いの可能性 役員の遺族に対して金銭的支援を行った場合、税務上は役員報酬の一部と見なされ、源泉徴収や所得税申告の対象となることがあります。 ・従業員の遺族の場合:給与課税の可能性 福利厚生の範囲を超える支払い(たとえば高額な接待、供物など)は給与とみなされ、遺族側に課税されるリスクがあります。 ・法人の損金算入の否認 明確な業務関連性が認められない支出については、法人側が損金として計上できない可能性があります。

対応方法と回避策

問題を避けるために、以下のような対応が推奨されます: 1.支出対象と目的の明確化 社葬に関連する支出が「社外関係者への対応」「企業としての儀礼」であることを文書で整理し、社内決裁を経て実施する。 2.遺族への説明と同意 法人側が代行する費用については、遺族に対して説明・了承を得ておく。領収書の宛名を法人とすることで、税務処理の一貫性を確保できます。 3.社内規定に明記する 社葬に関する費用負担ルールを社内規定(社葬規定や福利厚生規程)に盛り込むことで、処理の透明性と正当性を高めることができます。 4.必要に応じて贈与扱いにする どうしても私的支出が必要な場合は、会社が遺族に一時金として支給し、その上で遺族が自ら支払う形式を取る方法もあります(ただし贈与税や所得税への配慮が必要)。

事前に税理士・法務担当と相談を

社葬は一度きりの行事であるため、慣例や前例に頼りがちですが、特に費用負担の線引きは毎回事情が異なります。可能であれば、支出前に顧問税理士や社内の法務担当と協議を行い、リスクを洗い出すことを強く推奨します。

喪家への配慮、気を付けたいポイント

社葬を円滑かつ品位ある形で執り行うには、ご遺族(喪家)への配慮が欠かせません。企業が主体となる社葬であっても、主役はあくまで故人とその家族です。喪家の気持ちに寄り添い、配慮ある行動を取ることが、企業としての誠意と信頼の証になります。このセクションでは、社葬担当者が特に注意すべきポイントを具体的に紹介します。

社葬対象者やそのご家族とは日頃から連絡をとっておく

社葬は突然の訃報によって行われることが多いため、事前に「連絡体制」ができているかどうかが、初動のスムーズさを左右します。特に社長や幹部クラス、海外出張が多い社員、高齢の重役など、社葬の可能性が高い人物については、家族構成や連絡先を事前に把握しておくことが理想です。 ・個人情報としての取り扱いに配慮しつつ、連絡責任者を明確にしておく ・持病や通院歴のある社員の場合は、万が一の際の社内対応フローも整備しておく 日常的なコミュニケーションや社内の人間関係の中で、信頼を築いておくことが、いざという時の対応に大きく影響します。

ご逝去の連絡を受けたら

訃報を受け取った瞬間から、社葬準備は始まっています。まず大切なのは、「哀悼の意」と「企業としての姿勢」を同時に示す」ことです。形式的な確認作業だけでなく、感情を伴った丁寧な対応が求められます。 ・遺族に対してお悔やみを述べたうえで、社葬実施の可能性を慎重に提案 ・宗教・宗派、故人の生前の意向、家族の希望を丁寧に聞き出す ・葬儀形式や香典受領の方針、供花の要否などを確認し、メモに残す また、遺族とのやりとりの窓口を一本化することもトラブル防止につながります。連絡係はできるだけ信頼関係がある人物が適任です。

社葬当日、企業側としてできること

社葬当日は、企業としての行動がそのまま印象に直結します。遺族が不安や孤立を感じないよう、次のような配慮が必要です。 ・遺族専用控室の用意:プライバシーを守る空間と、冷暖房、飲み物などの提供 ・付き添い役の配置:企業側から1名以上、遺族に付き添い進行を案内する ・焼香・献花の順番管理:遺族を先導し、礼儀を乱さない進行をサポート ・感情的ケア:涙ぐむご家族には、静かにティッシュや水を差し出すなどの細やかな気配り さらに、焼香後の退出時や会食時にも、無理に話しかけず、静かなサポートに徹することが大切です。

社葬後、企業として対応すべきこと

社葬が終わったからといって、そこで全てが終わるわけではありません。葬儀後のフォローが、企業としての信頼を高める重要な要素になります。 ・香典返しリストの作成協力:遺族の負担を軽減するため、企業側が管理していた受付名簿を提供する ・お礼状や社報での追悼掲載:社内報やWebサイトで故人への追悼文を掲載し、社員全体に弔意を伝える ・満中陰(四十九日)や一周忌の案内:希望があれば社内で情報共有し、有志での参加を促す ・遺族への定期的な連絡:法要や会社記念式典での案内、年末年始のご挨拶などを通じて関係維持 一連の社葬対応を通じて、ご遺族から「この会社に勤めていたことが誇りだ」と思ってもらえるような姿勢が、最終的には企業の社会的評価にもつながります。

まとめ

社葬は、故人への感謝と敬意を表し、企業としての姿勢を社会に示す非常に重要な儀式です。その一方で、関係者の多さ、儀礼的な複雑さ、企業会計との関連性など、準備・実施にあたっては多くの配慮と判断が求められます。 社葬は一度きりの行事ですが、その印象は社内外に長く残ります。特に取引先や社員にとっては、「この会社に関わってよかった」と思えるかどうかの判断材料にもなり得ます。 したがって、形式にとらわれるだけでなく、故人と遺族に対する心からの敬意と感謝を軸に据えた対応が求められます。

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