中国の葬儀文化とは?派手な儀式と現代化された葬儀の仕組み

2024.11.22

  • 葬儀

中国の葬儀文化は、祖先崇拝や宗教的な伝統を背景に、長い歴史を持つ独自の形式が確立されています。一方で、都市化や現代化の影響を受け、葬儀の形式や慣習にも大きな変化が見られます。本記事では、中国の伝統的な葬儀文化から現代の追悼会儀式、殯儀館の役割、さらには参列時の注意点まで、すべてを包括的に解説します。

1. 中国の葬儀の流れと象徴的な要素

中国の葬儀は、長い歴史と深い文化的背景を持ち、地域や時代によって形式が異なるものの、共通して重要視される流れや象徴的な要素があります。ここでは、伝統的な葬儀と現代の追悼会儀式を融合させた形で、中国の葬儀文化の概要を解説します。

1-1.中国の伝統的な葬送文化

遺体の安置 中国の伝統的な葬儀文化では、寿命を全うして自宅で亡くなる「寿終正寝」が非常に重んじられています。 ここからご臨終の際に故人に寿衣(生前から用意しておく死装束や経帷子)を着せます。北方の漢民族の習俗では、まず白い下着を着せ、その上に黒い綿の上下、最外層には黒い長袍を着せます。この一式の衣服にはボタンがついておらず、全て紐で結びます。これは「帯(紐)」が「後継者がいる」ことを象徴しているためです。 訃報 棺が安置され一定期間が経ち、葬儀の準備が整ったら、日を選んで「報喪」(訃報を知らせること)を行います。報喪は死後に行われる最初の儀式ともいえます。これは地方によって報喪の方法は異なるようです。 ・広西地方:3回の爆竹を鳴らして訃報を伝える「報喪炮」 ・江浙地方:報喪者は傘を持ち、傘の頭を上にして柄を下にし、門外に置きます。 ・浙江地方の一部:遺族が喪服を着て料理や酒、銀の延べ棒や草鞋を用意し、家の外で「送無常」を行います。 弔問 「七日法要」と同時に弔問儀式が行われます。「弔」は親戚や友人が訃報を受け取って弔問に訪れ、故人の家族を慰めることを指します。 まずは霊堂を設営します。祭壇の前に机を一台置き、白いテーブルクロスを掛けます。机の上には、供物、香炉、ろうそく立て、常夜灯などを置きます。遺体を納棺する前は、昼夜を問わずこの常夜灯を見守り、消さないようにします。この灯りは故人の魂だと言われています。 遺体や棺は日の光の下に置くことを忌み嫌うため、簡素な祭祀を行う場合でも、必ず霊棚を設営する必要があります。霊棚の規模は庭の広さによって異なりますが、一つの庭だけに棚を設営する場合、これは「平棚起尖子」または「一殿」と呼ばれ、古典的な殿堂のように上部に棟がついています。 開吊儀式 霊棚の準備が整ったら、開吊儀式を行います。これは最も儀式的で重要な行事です。 この儀式もまた地方によって異なります。 ・浙江地方:喪家が大門の前に「報喪鼓」を設置します。弔問客が門を入ると、二回太鼓を叩きます。親族がその音を聞いて泣きながら迎えます。弔問客は故人の遺影に礼を捧げ、涙を流し、痛哭します。 ・寧波地方:祭品にもユニークな趣があります。霊前には火腿(ハム)で作られた琵琶や、豚の頭、肺、肝臓で作られた姜太公(太公望)、彩り豊かな白干し、豚の胃で作られた白象、熟した鶏で作られた鳳凰など、食品工芸品が小さな博覧会のように並びます。これらは家族が故人の霊に心を込めた祈りを捧げたものです。 納棺(入殓) 弔問が終わった後、死者の納棺儀式(入殓)が行われます。 納棺には「小敛」(小納棺)と「大敛」(大納棺)があります。小敛は死者に衣服を着せることを指します。そして、「大敛」は遺体を棺に納めることで、漢民族では「归大屋」(大きな家に帰る)と俗称されています。 棺に遺体を納める際は、子孝が最も孝心を表現できる場面であり、家族全員が胸を叩き、号泣します。棺を閉じる前には副葬品を納めます。民間では、死者の左手に金、右手に銀を持たせる習慣があります。具体的には、左手に小さな金の元宝、右手に小さな銀の元宝や銀を持たせます。 遺体と副葬品を納めた後、棺の蓋を釘で固定します。この行為を「镇钉」(鎮釘)と呼び、7本の釘(「子孫釘」)を使います。これは、子孫が繁栄するという縁起を担いだものです。納棺後に雨が棺を打つことは吉兆とされ、そうでなければ子孫が貧困に陥ると信じられています。納棺後、棺は出棺まで家の堂内に安置されます。 出棺 遺体が納棺された後、棺を埋葬地に運ぶ「出棺」(出殡)が行われます。俗に「送葬」とも呼ばれます。 出棺の日取りを選ぶ儀式は簡略化され、黄暦を参照したり陰陽師に相談したりすることが一般的です。しかし、関連する事項が多く慎重に行う必要があります。 埋葬(下葬) 初葬、哭喪、七日法要、葬送などの儀式が終わると、最後の段階である埋葬(下葬)が行われます。これは故人がこの世に留まる最後の瞬間であり、非常に厳粛に行われます。 埋葬の儀式は非常に厳密で手間のかかるものです。棺を担ぐ人は「八仙」と呼ばれ、墓穴を掘る作業は「打穴」と呼ばれます。墓穴を掘る前には山を切り開く儀式(開山)が行われ、孝子が香を焚き、ろうそくを灯して礼を尽くします。一部の地域では地霊を祀るために「地仙」を招き、太歳の方角を避ける必要があります。もし太歳の方角に掘ると、「太歳頭上動土」とされ、災いがもたらされると信じられています。 墓穴が完成した後、棺を墓穴の底に滑らせるために竹や滑らかな杉の枝を敷きます。棺が墓穴に収まったら、草皮で封をして墓穴を閉じます。

1-2. 現在の中国の葬儀の流れ

中国 葬儀 流れ

中国の葬儀では、地域の慣習や故人の宗教観によって若干の違いはあるものの、大まかな流れは以下の通りです。 1. 殯儀館に遺体を安置 遺体は「殯儀館(ビンイーグァン)」という施設に安置されます。殯儀館は、中国において葬儀全般を効率的に進めるための重要な施設であり、遺体の管理から火葬、葬儀の手配までを一括で行える場所です。都市部では特に重要な役割を果たしています。 2. 追悼会儀式 現代中国の葬儀で最も一般的な形式です。宗教的な要素が省かれることが多く、故人の功績や人生を振り返る社会的なセレモニーとして行われます。 ・哀歌の演奏:式の冒頭で哀歌が演奏され、厳粛な雰囲気が作られます。 ・献花:白い花を捧げ、故人への敬意と哀悼の意を表します。特に白い菊が純潔と追悼の象徴として用いられることが多いです。 ・祭文と弔辞:遺族や主催者が故人への感謝や追悼の言葉を読み上げ、故人の功績や人柄を語ります。友人や同僚による弔辞もこの場で述べられます。 3. 告別式 参列者が順番に棺の前に進み、故人との最後の別れを告げます。場合によっては、故人の顔を見る機会が設けられることもあります。 4. 火葬 殯儀館内に設置された火葬場で火葬が行われるのが一般的です。都市部では火葬が主流ですが、一部の農村地域では伝統的な埋葬が続けられている場合もあります。 5. 墓地への埋葬 火葬後、遺骨は墓地に埋葬されます。墓地の選定は、宗教的背景や地域の伝統、さらには風水の考え方に基づいて行われます。墓地の向きや配置は特に重要視され、慎重に選定されます。

1-3. 象徴的な要素

中国の葬儀には、故人の霊を慰めると同時に、遺族や参列者が弔意を示すための象徴的な要素が多く含まれています。 1.白色の使用 白は中国で喪を象徴する色です。喪服や葬儀場の装飾、献花に用いられる花も白で統一され、純潔と故人への追悼を表現しています。一方で、赤や明るい色は祝い事を連想させるため厳禁とされています。 2.紙銭の使用 紙銭(冥銭)は、故人があの世で快適に暮らせるように祈願して燃やされる紙製のお金です。現代では、中国元や金銀を模したものが多く使用され、燃やすことで故人に届くと信じられています。 3.献花の儀式 献花は、故人への敬意を象徴的に表現する行為であり、白い花、特に菊が多く使われます。派手な色や装飾を避け、簡素で落ち着いた花が選ばれます。

2. 現代中国での葬儀事情と殯儀館の役割

殯儀館は現代中国の葬儀文化において不可欠な施設であり、葬儀の効率化を象徴する存在です。

2-1. 殯儀館とは?

殯儀館は、遺体の安置から葬儀の準備、火葬、さらには行政手続きまでを一括で行う施設です。都市部での需要が高く、近代的な設備を備えています。

2-2. 殯儀館の主な役割

1.遺体の安置 殯儀館には冷蔵安置施設があり、衛生的に遺体を保管できます。特に都市部では、自宅安置が難しい場合に重要な役割を果たします。 2.葬儀の準備 告別式や追悼会儀式の会場設営や装飾、音楽手配などを一括して行います。 3.火葬 火葬場が併設されていることが多く、効率的に葬儀が進行します。 4.行政手続き 死亡届の提出や火葬許可証の取得といった手続きが代行されるため、遺族の負担が軽減されます。 5.費用管理 葬儀にかかる費用を一括して管理し、予算に応じたプランを提供します。

3. 派手で盛大な葬儀:爆竹や銅羅の演出

中国では、爆竹や銅羅を使った派手な葬儀が行われてきました。以下にその特徴を解説します。

3-1. 爆竹と銅羅の役割

1.悪霊を追い払う 爆竹や銅羅の大きな音は、悪霊を遠ざけ、故人の霊が安らかに旅立てるよう願うものです。 2.故人を称える 派手な演出は、故人の社会的地位や生前の功績を示す手段として使われます。

3-2. 葬儀の規模と参列者の重要性

1.葬儀の規模 中国では、葬儀が大規模であればあるほど、故人の徳や人望が深かったことを示します。 2.参列者の涙 葬儀で流される涙は、故人が築いた徳を象徴すると考えられ、泣き声や涙の量が重要視されます。

4. 泣き女の存在:中国特有の感情表現

泣き女の役割

中国の葬儀文化において、泣き女(哭丧人、クーサンレン)は、象徴的で重要な役割を果たします。泣き女は、葬儀の場で大声で泣き叫ぶことで、故人への悲しみを象徴的に表現し、参列者全体の感情を引き出す役割を担っています。泣き女の存在は、単なる感情表現の先導者にとどまらず、葬儀そのものを感動的な場に演出する大きな意義を持っています。以下にその具体的な役割を詳しく解説します。 1.参列者の感情を引き出す 泣き女が率先して大声で泣くことで、葬儀全体の雰囲気が一気に厳粛で感動的なものになります。特に葬儀の初期段階で泣き女が活動を始めることで、参列者の感情が引き出されやすくなり、故人を偲ぶ気持ちが高まります。泣き女の声は、故人の思い出や人生を連想させる詩や即興の言葉を伴うことがあり、聞く人の感情を深く揺さぶる効果があります。 2.涙と徳の関係 中国の伝統的な死生観において、「葬儀で流された涙の量が、故人の生前の徳の大きさを示す」と信じられています。このため、泣き女が感情豊かに泣き叫ぶことで、故人への敬意がより深まり、参列者全体の涙を誘発する役割を果たします。泣き女の活動を通じて、故人が多くの人々に愛され、敬われていたことを象徴的に表現することができます。

5. 挽章と挽聯:故人を称える葬儀文化の象徴

中国の葬儀において、挽章(ばんしょう)と挽聯(ばんれん)は、故人を悼み、その功績や人柄を称えるための象徴的な文化要素として重要な役割を果たしています。この二つは、葬儀の場で視覚的にも印象的な形で使用されます。 挽章(ばんしょう)とは? 挽章は、葬儀の際に送られる絹や布で作られた掛け物で、弔意を表す言葉が書かれています。使用される色は白や青、黒などが一般的で、厳粛な雰囲気を保つための一定のルールがあります。 挽聯(ばんれん)とは? 挽聯は、故人を偲ぶ対句形式の追悼文で、挽章に記載されることが多いです。内容は故人の性別や年代に応じたリストから選ばれ、最後には贈り主の名前が記されます。

6. 中国の葬式の注意点

中国の葬儀に参列する際には、服装、献花、香典などのマナーに加えて、日本とは異なる文化的な要素を理解することが大切です。不明点があれば、事前に現地の人に確認するなどして、適切に対応しましょう。以下に、特に注意すべき点を詳しく解説します。

6-1. 服装の注意点

中国の葬儀では、日本ほど厳しい服装のルールはありませんが、いくつかの基本的な注意点を押さえておく必要があります。 ・中国の葬儀を象徴する色は「白色」 白は中国において喪を表す重要な色で、葬儀の際に広く用いられます。黒や青などの落ち着いた色も適切です。一方で、赤や派手な色の服装は祝い事を連想させるため、避けるべきとされています。 ・アクセサリーは身に着けない アクセサリーや派手な装飾品を身につけることは厳禁です。葬儀では控えめで落ち着いた服装を心がけましょう。 ・現地の人に確認を 中国は地域ごとに文化や風習が異なります。不安がある場合は、現地の人や遺族に確認するのが確実です。

6-2. 焼香ではなく献花を行う

中国の葬儀では、日本のような焼香を行う習慣はほとんどありません。その代わりに、同様の役割を持つ「献花」が行われます。この点は、日本の葬儀とは大きく異なるため注意が必要です。 ▪献花の作法 ・献花に使用されるのは白い菊が一般的です。派手なアレンジメントや色とりどりの花束は不適切とされています。 ・ほとんどの場合、施主側が用意した花を使用するため、参列者が自分で持参する必要はありません。 ▪花を持参する場合 ・持参する際には、白い菊を用意するのが一般的です。 ・不安な場合には、現地のお花屋さんに相談すると良いでしょう。中国のお花屋さんは親身に対応してくれることが多いです。 ▪わからないことは確認を ・地域ごとに異なるマナーがあるため、不明点があれば遺族や現地の人に確認を忘れないようにしましょう。

6-3. 香典の準備とマナー

日本と同様、中国でも香典を持参する風習があります。ただし、中国特有のルールや注意点があるため、以下をしっかり押さえておきましょう。 ・金額は必ず奇数にする 中国では、香典の金額は奇数にするのが一般的です。一方で、「9」という数字は縁起が良いとされるため、絶対に避けるようにしましょう。 ・香典の相場 仲の良い知人の場合:500元〜1,000元(*約10,680円〜21,360円) 同僚や知人の場合:300元〜500元(*約6,408円〜10,680円) *1元=21.36円(2024年現在の為替レート) 地域や遺族との関係性によって金額は異なるため、地元の人に相談するのも良いでしょう。 ・白包(パイパオ)を使用する 香典は「白包」と呼ばれる白い封筒に包みます。この封筒には「奠儀(てんぎ)」や「哀悼(あいとう)」といった追悼の言葉を記載することがあります。 ・地域ごとのルールを確認 中国は広大な国土を持つため、地域ごとに異なる習慣があります。香典の金額や包み方、渡し方など、現地のルールに従うことが大切です。不明な場合は必ず現地の人や遺族に確認しましょう。

7. 日本との葬儀文化の違い

葬儀 中国 日本

日本と中国の葬儀文化は、歴史や宗教的背景、社会的な価値観の違いを反映しており、形式や進行、象徴的な要素に大きな相違点があります。以下に、主な違いを解説します。

7-1. 宗教的要素

・日本 日本の葬儀は仏教の影響を強く受けており、多くの場合、僧侶による読経が中心的な役割を果たします。参列者は数珠を手に持ち、焼香を行うことが一般的です。 ・中国 一方、中国の現代的な葬儀では、宗教的要素は大幅に簡略化されています。特に都市部では、故人の功績を振り返る追悼会儀式が主流で、宗教儀式はほとんど行われない場合もあります。ただし、農村部では道教や仏教の影響を色濃く残した伝統的な儀式が続けられることもあります。

7-2. 焼香と献花

・日本 日本の葬儀では、参列者が故人に焼香を捧げることが一般的です。焼香は、仏教的な儀式として供養の一環とされています。 ・中国 中国の葬儀では焼香の代わりに「献花」が行われます。白い菊の花が最も一般的で、参列者が順に花を捧げることで故人への敬意を示します。焼香の習慣はほとんど見られませんが、地域によっては香を焚く場合もあります。

7-3. 遺体の安置場所

・日本 日本では、故人の遺体は自宅や専用の安置施設に安置されるのが一般的です。特に通夜の際、故人を自宅で見守ることが重視されます。 ・中国 中国では、殯儀館(ビンイーグァン)と呼ばれる専用施設に遺体を安置します。この施設は、葬儀の準備から火葬までを一貫して行える仕組みを持っており、都市化が進む現代では不可欠な存在です。

7-4. 葬儀の演出と規模

・日本 日本の葬儀は、故人と親しい親族や友人が中心となり、静かで厳粛な雰囲気が重視されます。規模は家族葬や一般葬が主流で、大規模な演出はあまり見られません。 ・中国 中国では、特に農村部において、葬儀の規模が大きいほど故人の功績や人望が深かったと評価されます。爆竹や銅羅などの派手な演出が行われることもあり、葬儀は音楽や踊りを伴う大規模なイベントとなる場合があります。都市部では簡素化されていますが、それでも親族以外の多くの参列者が集まることが一般的です。

7-5. 香典の扱い

・日本 日本では、香典の金額は「偶数」ではなく「奇数」とされ、弔事にふさわしい金額が用意されます。白い封筒に黒い表書きを添えるのが一般的です。 ・中国 中国でも香典を持参する習慣がありますが、必ず奇数の金額にする必要があります。「9」という数字は縁起が良いとされるため避けるべきです。また、専用の白包(パイパオ)に入れて渡す点は日本と似ていますが、地域によってルールが異なるため確認が必要です。

まとめ

中国の葬儀文化は、日本とは異なる特徴を多く持っています。特に服装や献花、香典については地域ごとに異なるルールがあるため、不安な場合は現地の人に確認することが大切です。また、葬儀全体を通して静かな態度を保ち、時間厳守を徹底することで、故人と遺族への敬意を示すことができます。 中国の広大な文化的背景を理解し、適切なマナーを守ることで、葬儀の場にふさわしい振る舞いを心がけましょう。

参照元:Bai du 百科

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